「うわ、何それ」

待ち合わせの公園で私の姿を見るなり、徹はその端正な顔を歪ませた。

「なにが?っていうか、一週間ぶりに会ったのに第一声がそれ?」

夏休みだというのに毎日部活ばかりの徹だから、私たちが会えるのは部活がオフになる月曜日だけ。それに対して不満がないわけではないけれど、彼がどれだけバレーボールを好きか知っているから週一回のデートでも十分だって思える。そんな貴重なデートのため、朝から精一杯のおしゃれをしてきたというのに、第一声が「うわ、何それ」ってどういうこと?

「一週間ぶりに会った彼女がケバケバしくなってたら、そう言いたくもなるデショ!」

ケバケバしい?思いもよらない言葉に軽く驚いた。今日の私はお気に入りの水色のギンガムチェックのワンピースに白いサンダルを合わせ、髪は編み込みでアップにしている。夏休み中だから、普段はしないメイクもしてるけど、ファンデーションとチークとグロスだけのナチュラルメイクだ。あらためて自分の出で立ちを確認してみるけど、どこにもおかしいところないはずだ。

「いや、服もメイクも可愛いよ。だけど、これはダメ!」

そう言って徹は、私の右手を持ち上げた。そこには誕生日に徹がプレゼントしてくれたシルバーのブレスレットと、夏らしく青いマニキュアが塗られた爪がある。どうやら、徹にはそのマニキュアがお気に召さないらしい。

「マニキュア、似合わない?」

この間、友達とショッピングに行った時に買った青いキラキラ光るマニキュア。涼しげで気に入っているけれど、私の爪は小さく丸っこくて、お世辞にもマニキュアが似合う爪ではない。やっぱり、私の爪にマニキュアは似合わないだろうか。首を傾げる私に、徹は眉間の皺をそのままに「ちょっと待ってて」と行ってどこかに走り去ってしまった。





◆ ◆ ◆




10分後、徹は小さなビニール袋を片手に戻ってきた。

、手出して」

言われるままに手を出すと、徹はビニール袋から買ってきたらしい除光液を取り出した。きちんとコットンパフも購入しているところが、なんとも彼らしい。コットンパフに除光液を染み込ませて、徹は青いマニキュアが塗られた爪にそれを押し当てた。

「そんなにマニキュア似合わなかった?」

「そうじゃないけど…っていうか、よく見たらはみ出してるじゃん」

「……だって、右手って塗りづらいんだもん」

ただでさえ利き手ではない左手でマニキュアを塗るのは難しいのに、それに加えて私は手先がとても不器用なのだ。それでも何度も失敗を繰り返しながら、今日のためにそれなりに完成させた爪だったのだけれど。「は不器用だもんね〜」と笑う徹が、最後の青を消していくのを少し寂しいような気持ちで眺める。

「よし、じゃあ次はコレね」

全部のマニキュアを落とし終えた徹は、ビニール袋から今度は小さな小瓶を取り出した。太陽の光を浴びて輝くそれは、桃色のマニキュアだ。徹は、鼻唄を歌いながら私の爪にそのマニキュアを塗り始めた。

「でーきた」

数分後、淡い桃色に染まった私の爪を眺めて、徹は満足そうに笑った。

「うん、やっぱりにはピンクが似合うよ。こっちの方が絶対可愛い」

「…徹が器用すぎてムカツク」

せっかく徹が可愛いって褒めてくれたのに、素直になれない私は捻くれた言葉しか返せない。一切はみ出すことなく出来上がった完璧さに嫉妬したのも事実だけれど。そんな私の照れ隠しも全部お見通しの徹は、仕方ないなぁという風に笑って私の手をとった。

「ほら、今日はが行きたいって言ってたカフェに行こう?」

夏休み前に呟いた何気ない一言もちゃんと覚えてくれるところも、敵わないと思う。こうやって、もっともっと徹を好きになっていくんだろうななんて。徹の大きな手に包まれて、ちらりとのぞく桃色を見つめて私は小さく笑った。








            指の先まで恋して