私の朝は早い。
一般の生徒が登校するには随分と早い時間に家を出て、学校への道のりを小走りで辿る。決して朝は得意ではないけれど、この習慣が始まってからは少しの眠気も感じなくて、むしろ鼻唄でも歌ってしまいそうになるほど気分がいい。その理由は――。
家から5分ほど歩いたところにあるT字路で、ガードレールに寄り掛かるように立っていたのは、彼氏である国見英くん。白地にペールグリーンのラインが入った爽やかな色合いのジャージに身を包む国見くんは、すらっと背が高くて(182.8センチ!)、細身だけど運動部らしく程よい筋肉がついている。眠たそうな目元はむしろ色気すら感じられて、何よりふとした瞬間に見せてくれる笑顔が最高に素敵なのだ。
そんな自慢の彼氏をうっとりと見つめていると、視線に気づいたらしい国見くんが私を見つけて呆れたように「早く来ないと置いてくよ」と呟いた。そう言いながらも、ちゃんと待っていてくれる国見くんに嬉しくなって、私は自分でも分かるくらいに一気に破顔して彼に駆け寄る。
「おはよう!今日もかっこいいね!」
サラサラの髪が風に揺れてまるで一枚の絵画のようだと国見くんに言うと、彼の気だるげな瞳が私を捉えた。なんだか少し呆れたような視線だけど、口元は少し笑っている。
「はよ。は相変わらず朝から元気だな」
「だって、国見くんに会えるの楽しみなんだもん!」
「…あっそ」
くあっと欠伸をする国見くんにそう言って笑ってみせると、彼は少し照れたように視線を外して、だけど当然のように左手を差し出してくれた。その手をきゅっと握って、私たちは並んで他愛のない話をしながら歩きだす。
国見くんはバレー部に所属している。一年生にしてレギュラーを獲得している国見くんは、ほぼ毎日朝練に参加していて、運動部に所属していない私とは登校時間が違う。だから私は、こうして彼の時間に合わせて学校へ行っているというわけだ。
『は、こんな早くから学校行く必要ないだろ?』
一緒に登校したいと言ったとき、国見くんは訝しげにそう尋ねた。その問いに私は大きく首を振って、国見くんと一緒に登校できるなら早起きなんて苦にならない、学校に行くまでの少しの時間だけでも国見くんを独り占めしたいと力説したことを覚えている。
必死に言葉を並べる私に、国見くんは少し驚いたようだったけど、「わかった」と納得してくれたようだった。それからは、何も言わずにいつものT字路で私を待ってくれている。その姿を見るたびに、心臓がキュンと音を立てるのだ。
そうして手に入れた二人きりの時間も、ほんの15分ほどで終わりを告げる。学校に着いたら、私は体育館へと向かう国見くんを見送って教室に行くのが常だ。練習の邪魔はしたくないから、体育館に朝練を見学に行くことはほとんどない。
「それじゃ、練習がんばってね!」
いつもなら短い返事を返してくれて背を向けるのだけど、なぜか今日はジッと私を見たまま動かない。どうしたのだろうと首を傾げると、国見くんはチラリと周りを見渡した後、上半身を屈めて私のおでこに唇を寄せた。ちゅっと小さなリップ音が響いて、私は呆然と国見くんを見つめる。
「また、後でな」
くしゃりと私の髪を撫でて、国見くんは何事もなかったかのように体育館へ歩いていく。その背中が角を曲がって見えなくなってようやく、たった今何が起こったかを認識した。その途端、ぶわっと顔中が熱くなる。不意打ちのキスにしばらく熱はおさまりそうにないけれど、やっぱり私は国見くんが大好きで仕方ないみたい。だって、こんなにも幸せな気持ちにしてくれるのは、きっと国見くんだけだから。
私の彼を紹介します