部活を終えた帰り道、腹が減ったという金田一と部活の話をしながらコンビニに向かっている途中、ポケットで震えたスマホを取り出した。いつものように操作して画面を見ると、ラインの通知が一つ。

「なに、?」

特に何も言っていないのに通知を寄こした相手を当てた金田一に思わず顔を上げてしまった。別にから連絡がきていることを知られるのは構わないけれど、それを何の迷いもなく当てられたのが腑に落ちない。そんな思いを表情にのせると、金田一がニヤリと笑みを浮かべた。

「だってお前、顔ニヤけてるから」

「……は?」

顔がニヤけてるって…自慢じゃないけれど、俺は表情豊かとは言い難いと思う。もちろん喜怒哀楽はあるし笑ったり怒ったりすることもあるけど、あまり感情が表に出るタイプではないし、簡単に感情を読み取らせてるつもりもないのに。納得がいかなくて怪訝な顔をしてみせると、金田一の笑みはさらに深くなる。

「国見って絡むと雰囲気柔らかくなるし、すげー嬉しそうな顔するからさ。今もそんな感じだから、からかなぁって」

マジか。完全に無意識だ。しかもそれを金田一に指摘されるって、どんだけ分かりやすいんだ俺。何気にショックを受けていると、金田一が勝手にスマホの画面を覗き込んできた。学校近くのカフェの新メニューに塩キャラメルのシュークリームがあったこと、それを今度一緒に食べに行こうというハート付きのからのメッセージを見て金田一が笑う。

「ホント、って国見のこと大好きだよな〜」

それは知ってる。自惚れなんかじゃなくて、が俺を好きでいてくれてることには自信がある。俺を見るたびにあれだけ嬉しそうな顔してれば疑う余地なんてない。そんなことを思いながら辿りついたコンビニで小腹を満たしていると、金田一が肉まんを頬張りながら「そういえばさ、」と切り出した。

「なんで名前じゃねーの?」

「何が?」

「ほら、はお前のこと苗字で呼ぶだろ?なんで名前で呼ばないのか、ずっと疑問だったんだよな」

確かには俺のことを“国見くん”と呼ぶ。付き合って1年以上経ってるし、普段のの様子からみれば疑問に思うのも当然かもしれないけれど。

「国見は名前で呼んでほしいとか思わねーの?」

「別に。どうせ将来苗字が国見になったら名前で呼ぶしかないんだし、今はいいんじゃない」

そう答えると、金田一はどこか微妙な顔をした。それに「何だよ」と返すと、金田一は「無自覚って罪だよな…」とよく分からないことを呟いて、やれやれという風に頭を振っていた。金田一が何を考えているのかは知らないが、その素振りがなんとなくムカついたので脛を蹴っておく。

「痛てぇ!何だよ!」

「いや、そこにラッキョがあったから」

「ふざけんな!」

騒ぐ金田一を置いてのんびりと歩き出す。別に本当に苗字で呼ばれることに不満はない。というか、が俺を“国見くん”と呼ぶのは学校や外だけで、家に遊びに来たときや二人きりのときは名前で呼んでいるのだ。

でも、それをわざわざ金田一に教えてやる義理はないし、俺を名前で呼ぶときのの顔は見せられないし見せたくない。あれだけ俺に“かっこいい”だとか“大好き”だとか恥ずかしいことを恥ずかしがらずに連呼するくせに、名前を呼ぶだけで真っ赤になるだなんて女心は理解できない。嫌な気は全くしないけれど。

「はぁ…俺、今からスピーチの練習しといたほういいのかも」

「は?スピーチ?」

「いや、こっちの話」

肉まんを食べ終えて追いついてきた金田一が溜め息まじりに呟く。つか、金田一がスピーチする場面なんてあったっけ?今度の大会の壮行会は及川さんが喋るだろうし、金田一は学級委員でも何でもないはず。そう思って聞き返したけれど、あっさりとはぐらかされてしまった。ま、いっか。俺には関係ないだろうし。

そこから話題はまたバレーの話に戻って、俺は金田一のいうスピーチが何なのかなんてすっかり頭の隅に追いやってしまい、その答えを知るのはもう少し後になってからだった。









              永遠にともに